美しさの正体とは 漠然#36
今回のテーマは「美しさの正体」。
折り紙を作るハマナカ、文章を書くどてらい、写真を撮るさかまさみ。
創作する3人が、「いいものを作る」とはどういうことなのかを語り合う。
インプット、処理、アウトプット。
目的に沿って作られる「良いもの」と、目的がないようで目的に合っている「美しいもの」。
『カント』の『判断力批判』に出てくる「目的なき合目的性」を手がかりに、話は少しずつ美学の森へ。
自分の主観から生まれる美しさ。
客観的に美しいとされているもの。
「嫌いバリア」と「好きバイアス」。
そして、大いなる存在に感じる「崇高」という概念。
美しさは、作品だけでなく、言葉の受け取り方や、日々の暮らしに潜んでいる。
毎週金曜日更新の「終わらない雑談」。
今日もお聴き流しください。
要約
00:00:00 創作における3ステップ
今回は、創作する人間として「いいもの」を作るために何をしているのか、という話からスタート。ハマナカは、創作をインプット、処理、アウトプットの3段階で捉えていると語る。美術館に行く、映画を見る、本を読むことで良いものを取り込み、それを分析し、自分がなぜ良いと感じたのかを考える。そして最後に、実際に手を動かして折り紙を折り、試行錯誤しながら自分の限界を少しずつ更新していく。創作は感性だけでなく、かなり筋トレ的な行為でもあるらしい。
00:06:09 一期一会で撮る写真 プロジェクト管理で書く文章
さかまさみは、写真について「こういうものを作りたい」と目標を定めて進むより、瞬間や出会いから表現が広がることが多いと語る。多重露光に興味があっても、自分のカメラではできない。ならば反射を使えば近い表現ができるのではないか。そうした偶然の気づきから写真が広がっていく。一方どてらいは、文章仕事をプロジェクト単位で捉え、まずゴールや評価基準を考える。誰にとって良いのか、何のための文章なのか、自分にとっての良いと読者にとっての良いの落としどころを探す作業が、どてらいにとっての「いいものを作る」ことに近い。
00:10:00 「良い」と「美しい」の違いを考える
ここでハマナカが『カント』の『判断力批判』に出てくる「目的なき合目的性」を紹介する。良いものは、誰かにとって役に立つ、目的に沿っている、といった基準で判断しやすい。一方で美しいものは、明確な目的がないようでいて、どこか目的に合っているように感じられるもの。花が美しいのは、インスタ映えするからではない。何かに向かって存在しているように見えるから、美しいと感じるのかもしれない。良いものと美しいものは似ているようで、見ている場所が少し違う。
00:17:15 伝えるつもりがないのに、伝わる
どてらいは、自分が美しいと感じる瞬間として、作り手の人柄や意地が見えた時を挙げる。『ロックマンX』のオープニングステージBGMから、作り手の「このゲームで心をつかんでやる」という意地を勝手に受け取ったという話へ。作り手が本当にそう意図したかはわからない。それでも受け手が、そこに目的や熱を感じてしまう。ハマナカも、誰かに届けるための「良いもの」と、自分の中の基準に従って作る「美しいもの」では、脳の使い方が違うと語る。伝えるつもりがないのに伝わってしまう不思議さが、美しさの一部なのかもしれない。
00:25:44 期待値オーバーの発生要因
創作には、作り手自身の予想を超えたものが出てくる瞬間がある。ハマナカは、作ったものが自分の想像を上回った時、「どうした俺」と思うような感覚があると語る。適度な自画自賛は大事で、自分の中の厳しい評価基準を超えた時にはちゃんと褒めた方がいい。一方さかまさみは、写真を編集している時に、急にタイトルや言葉が「これじゃん」と降ってくることがあるという。それは頭で考えて作るというより、考えすぎない状態で突然変異のように現れる。創作の中には、努力だけでは説明できない、運やひらめきの領域がある。
00:30:00 コレジャンセンサー発動
さかまさみの「これじゃん」という感覚から、話は「コレジャンセンサー」へ。センサーを高めるにはどうすればいいのか。ハマナカは、結局は量をこなすしかないのではないかと語る。どてらいは、かつて編集者に「文章が60点か120点しかない」と言われた話を紹介する。80点を安定して出すことも大事だが、120点を狙わないと100点も出ない。とはいえ、仕事としては60点では困る。正しいフィードバックをくれる編集者がいるからこそ、首を切られない程度に挑戦し続けることができる。創作には、安定と突破の両方が必要なのだ。
00:35:38 時代性とローカル性、普遍性の三位一体
ハマナカは、良さや美しさには時代性やローカル性があるのではないかと話す。文化や国によって、論理の組み立て方や価値観は異なる。変化していくことが良いとされる文化もあれば、昔からの正しさを維持することが価値になる文化もある。ファッションや芸術も、時代によって「良い」「美しい」の基準が変わる。一方で、時代を超えて美しいと感じられるものもある。美しさは、文化や時代に左右されるものと、普遍的なものが混ざり合っているようだ。
00:40:00 美しさは、主観と客観のあいだに
『カント』の話に戻り、美的判断は主観的な感性でありながら、同時に客観的な普遍性も含んでいるのではないかと語られる。自分がこの馬を美しいと思う時、どこかで「他の人も美しいと思うだろう」という感覚が含まれている。逆に、世間で美しいとされているものを見て、自分の主観が後から変わることもある。美しさは、完全な主観でも完全な客観でもなく、そのあいだにある不安定なバランスなのかもしれない。
00:46:49 嫌いバリアと好きバイアス
さかまさみは、美術品や表現を見る時に、好き嫌いで判断してしまうことがあると話す。嫌いだと思ったものを、美しいものとして説明された時に、自分の見え方は変わるのか。そこから「嫌いバリア」と「好きバイアス」の話へ。客観的には美しいとされるものでも、自分の嫌いが強すぎると受け取れないことがある。逆に、好きだからこそ盲目になってしまうこともある。自分の外にある美しさを探すには、好き嫌いや思い込みを少し外して見る必要があるのかもしれない。
00:53:56 美しさの正体とは
ハマナカは、『判断力批判』における「崇高」の概念を紹介する。美しさが調和や整いに関係するものだとすれば、崇高は自然の圧倒的な大きさや、人間の認識を超えてくるものに対する感覚に近い。巨大な山、荒れ狂う海、宗教画、大仏、映画館のスクリーンで見る巨大な宇宙船。そこには、美しいだけでなく、恐れや無力感も含まれている。負けているのに嬉しい。勝てないのに惹かれる。矛盾した感情が同時に立ち上がるところに、崇高の気配がある。美しさの正体は、主観、客観、好き嫌い、時代性、そして恐れまで含んだ、かなり複雑な心の動きなのかもしれない。
漠然なる気付き
「良いもの」は目的に沿って評価しやすいが、「美しいもの」は目的がないようでいて、どこか目的に合っているように感じられる。ここに美しさのややこしさがある。
創作には、インプット、処理、アウトプットの流れがある。良いものを見て、なぜ良いのかを考え、実際に手を動かして試す。この筋トレ感は、折り紙にも文章にも写真にもある。
さかまさみの写真は「取りに行く」より「出会う」創作に近い。まさに漠然スタイル「一期一会」。一方、ハマナカは設計と試行錯誤、どてらいは目的と落としどころから作る。創作スタイルの違いがよく出ていた。
伝えるつもりがなくても、なぜか伝わってしまうものがある。作り手の意地、熱、祈り、無意識の目的のようなものを、受け手が勝手に感じ取る瞬間が美しい。
「コレジャンセンサー」は運の要素が強い。ただし、運を引くには行動量を増やすしかない。結局、創作は最後に体育会系の顔をする。
文章仕事では、80点を安定して出すことも大切だが、120点を狙わなければ100点も出ない。正しく叱ってくれる編集者がいる環境は、挑戦を続けるうえでかなり貴重。
美しさは、主観と客観のあいだにある。自分が美しいと思うことと、みんなも美しいと思うはずだという感覚。その両方が混ざった不安定なバランスが、美的判断なのかもしれない。
好き嫌いは、美しさの判断にかなり影響する。嫌いバリアによって見えなくなるものもあれば、好きバイアスによって見えすぎてしまうものもある。
「崇高」は、美しさに恐れや無力感が加わったものに近い。巨大な山、大仏、宇宙船、宗教画。勝てないものに出会った時、人は負けながら喜ぶことがある。
美しさの正体は、ひとつの言葉では捉えにくい。目的、主観、客観、文化、時代、好き嫌い、恐れ。いろんな判断軸が重なったところに、美しいという感覚が立ち上がっている。
本日の漠然マイスター
ハマナカ
紙折り人。DJやプログラミングもする。折り紙デザインスタジオ Kamiori-Studioを運営している。漠然スタイルは「神降ろし」。0から1を作ることに没頭しているうち、その身に神を宿す術を習得しつつある。マイスターとしては研究家気質で、他人の漠然感の分析に余念がない。
どてらい
物書き。空手やたこ焼き職人もする。主に雑誌『散歩の達人』で執筆、トンチキ企画担当。最近、古畑任八郎という人格が発現した。漠然スタイルは「イタコ」。グッと集中すれば他の人格を憑依させられるし一時的な記憶の塗り替えも可能。自分を単なる容れ物と考えているイカれた男。
さかまさみ
写真家。ガスメーターをこよなく愛するガスメーター大好きお姉さん。焼き魚との対話に悩む繊細な性格。
漠然スタイルは「一期一会」。ファーストコンタクトのインパクトが大きければ大きいほどまっしぐらに走る。まさに「思い込んだら一直線」の瞬間最大風速系マイスター。
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